日本語とは全く異なる体系をもつ言語について、その類型を「空間認識」という面から解き明かします。
世界には、それぞれ特徴の異なる6,000を超える言語があると言われています。そして、それらを俯瞰すると、例えば「主語が先行することが多い」言語が80%以上を占めるなど、さまざまな傾向が見えてきます。こうした言語の類型を研究するのが、言語類型論という分野です。
「Aくんは木の右に立っているよ。」あなたはこの文章を、「右」という言葉を使わずに表現できますか? 世界には、それをせざるを得ない言語が一定数存在します。
例えば、インドネシアのフローレス島で話されている「ラマホロット語」には、「右」「左」に対応する言葉がありません。では、物事の位置に関する重要な語彙を持たない言語圏の人々は、どのような表現方法をとっているのでしょうか。
この講演では、言語と認識の根幹に関わる課題に対して一つの示唆を与えます。ラマホロット語の類型的分析に加え、フローレス島の人々の暮らしを紹介していくことで、空間認識と表現の謎を解き明かします。
長屋 尚典先生
東京大学大学院人文社会系研究科 准教授
東京大学ヒューマニティーズセンター HMCフェロー
専門は言語学、特にフィリピン・インドネシアを中心とするオーストロネシア諸語ならびに言語類型論。
オーストロネシア語族、特に、フィリピン・インドネシアで話される諸言語を中心に、言語類型論の観点から、その文法構造について研究している。この語族は1,200もの言語を擁し世界で最も大きな語族の1つであるが、その中でも、タガログ語とラマホロット語(東インドネシア、フローレス島)を主な研究対象とし、フィールドワークも行っている。