第94回五月祭 English

【対談】紙の世界

この特集では、身近ながら奥深い素材である「紙」を扱う企画にインタビューをしました。


「襖張り替え実演」を出展する東大襖クラブ(以下、襖クラブ)と「折紙美術館'21 in 本郷」を出展する東京大学折紙サークルOrist(以下、Orist)の方々に、紙そのものやそれを扱う技術へのこだわりについて語っていただきます。

それぞれの企画、それぞれの活動

委員
まずは、それぞれの企画について教えてください。
襖クラブ
襖クラブでは、襖の張り替え実演を配信します。その際に、襖に関する知識も紹介します。
Orist
Oristでは、現代折紙の普及のため折り紙の展示やYouTubeでの発信を行います。現代折紙というのは鶴など従来の折り紙とは違い、展開図や理論を用いて折っていく、ある意味学問的なものです。
委員
お互いの企画にはどのような印象を持っていますか。
襖クラブ
折り紙と学問の融合というのがとても興味深いです。
Orist
襖張り替えの作業の奥深さというのがどこにあるのか気になりますね。

折り紙、襖のおもしろさ

委員
確かに気になります。活動の中心でもある、襖の張り替えの魅力はどんなところですか。
襖クラブ
よく聞かれますね。
襖を張ること、体を動かすことが好きな部員、張り替えを通じて得られる知識に魅力を感じる部員とさまざまいるので一口には言えません。
襖そのものが好きって部員もいるんですよ。
委員
襖そのものにも魅力が。
襖クラブ
襖は実は機能的なんです。重層的な構造、少なくとも三層以上の構造をなしている。そのため紙と紙の間に空気が入り、防音、断熱機能が生まれる。シックハウス症候群の原因となるような有害な物質を吸収してくれるなんて機能もあります。ただの建具じゃないというのが面白い点です。
委員
なるほど。
折り紙と学問の関連性も気になります。
Orist
紙が折りたたみ可能な条件にも数学が関わっていますね。数学によって導かれた効率的な折り方というのもあります。人工衛星のソーラーパネルの折りたたみにも折り紙の考え方が使われているのが有名でしょうか。
委員
理論的で難しそうですね。
Orist
確かに美しさ、構造を理詰めで考えて創作する人もいます。
しかし私はなんとなくいじりながら発見を作品に派生させていくタイプです。既存のものを改造していくうちになんとなく形を見つけ出していくことに魅力を感じています。
委員
なるほど。
こう聞いてみるとやはり襖は生活用品、折り紙は芸術作品のような印象があります。
襖クラブ
いや、もちろん襖は部屋と部屋を区分けする建具ではありますが、襖の張り替えは「最も手軽な模様替え」であるとも言えるんです。
職人さんに話を聞くと、現在は襖の伝統的なデザインと今風のデザインを折衷させて洋間にも合うような襖を作ることを試みているらしいです。日用品を超えた芸術的な面がありますよ。
Orist
逆に折り紙を芸術のような敷居の高いものではなく趣味として捉えてもらうというのもあると思います。
心を無にして折り紙を折る、折り紙を日常に取り入れる。これは息抜きとして良いのではないでしょうか。折り紙を折っている間は嫌なことを忘れられますよ。
委員
襖は生活の中に芸術を、折り紙は芸術の中に生活を包み込んでいるんですね。

こだわりの技術

委員
紙を扱っている際にこだわっているところは何かありますか。
襖クラブ
襖はピンと張れなければ、カッコ悪い。1年生が張る襖のなかには紙の扱いが下手でシワが寄ってしまうものもありますが、それをピンと張る技術を身につけていきます。ただ「貼る」わけではないんです。
Orist
折り紙の場合は、湿気を吸うとハリがなくなって困るので保管にこだわっています。しかし一方で、濡れ雑巾でこすってから折るウェットホールディングという技術もあります。折りすぎて扱いにくくなった紙を加工しやすくするんです。
襖クラブ
ウェットホールディングの技術は、まさに襖をピンと張るために使っているものです。乾かしたときに縮む力でシワやヨレを防いでいます。
Orist
折ったら目立たないので、襖ほど紙にシワがよることには気をつけないですね。糊ははみ出るとみっともないのでそこは気をつけます。
襖クラブ
糊に気をつけるのはまさに襖も同じです! 糊が襖の表面についていると見栄えがよくないですよね。
技術が完全に別のものでもないのだな、という印象を持ちました。もしかして、襖は折り紙と完全に違うものではないのかもしれません。
委員
意外な共通点があるんですね。

紙の面白さ

委員
紙だからこそできる表現や、紙という素材の面白さについて教えてください。
襖クラブ
木製のドアと襖の違いは平面の扱いやすさですね。木材は平面を作るためにカンナがけのような加工が必要ですが、紙はそもそも波打たない平面状なんです。圧倒的に平面を扱いやすいのが紙という素材です。
Orist
折り紙には多様性がありますね。薄い紙にボンドをたくさん塗って仕上げると、粘土のようにねじったりつまんだりの自由度が高くなり、リアルな感じに仕上げることができるんです。
一方で皆さんがイメージするような三角や四角の作品もあります。自分でいかようにも変形することができるので、作風の自由度は高いです。
襖クラブ
加工のしやすさは紙の面白さですよね。襖のようにピンと張ったり立体的に折り重ねたりすることで、美しさを演出できるという自由さが紙の魅力であり、さまざまな用途に使われる背景なのかもしれません。
委員
オンライン化によって活動や企画形態などが変化したと思います。そのなかで、何か感じたことはありますか。
襖クラブ
そうですね、襖はもともと建具ということもあり持ち運ぶのが難しいです。しかしインターネットを通じた配信ができるようになったため、遠くの人にも魅力を伝えられるようになりました。
Orist
オンラインを活かした活動として、Oristではオンラインで講習会をして、部員同士お互いに教え合っています。この地道な活動のなかで、折り紙の裾野がさらに広がった気がします。
委員
最後にひとこと、お願いします。
襖クラブ
配信という手段を使うようになって、場所を選ぶという襖の欠点が見事に乗り越えられたのではないかと思いますね。臨場感こそ失われてしまったものの、オンラインを活かした企画を展開していきたいです。
Orist
日常の息抜きとしても楽しめる折り紙が、紙の買い方や仕上げのやり方などだんだんステップアップしていく過程は面白いですよ。やっているうちにさらに折り紙の魅力を感じ取ってもらえると思います。
委員
紙というつながりを通じて、さまざまな共通点や相違点を教えていただき楽しかったです。本日はありがとうございました。

どちらの団体も、紙に対する強い情熱を持っているようです。当日はどのような展示を見せてくれるのか楽しみですね。


思いの詰まった紙に注目し、どこまでも広がる紙の世界の1ページをめくってみましょう!

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