The 94th May Festival 日本語

【対談】科学の伝え方

この特集記事では、科学をメインテーマとしている企画を集めて対談形式で実施したインタビューの様子をお届けします。


今回「10分で伝えます!東大研究最前線」を出展する大学院生詰め合わせ(以下、10分)、「なるほど実感!サイエンスショー@本郷」を出展する東京大学サイエンスコミニュケーションサークルCAST(以下、CAST)、「伝えることば、伝わるこころ」を出展するUTaTané(以下、UTaTané)の3企画の責任者の方へインタビューを行いました。企画の中核をなす「科学の伝え方」をテーマに、熱く語っていただきました。

企画のみどころ

CAST
コロナ禍によりイベントの依頼をいただくことが減ったので、広く科学を知ってもらう機会を作るべく今年も出展しました。今回は、サイエンスショーや工作を体験してもらう企画などをオンラインで実施します。
UTaTané
五月祭にはとても幅広い層の方が訪れます。そこにどうやって科学を伝えるかというのは非常に大きな課題だなと感じています。
「伝えることば、伝わるこころ」というキャッチフレーズのもと、参加型企画を行うことで、コミュニケーションにおけるコロナ禍特有のすれ違いを埋めたいと考えています。
10分
この企画の大きな特徴は、構成員が主に東京大学大学院の博士課程の学生だという点です。院生による10分間の講演を通じて、研究の“つまみ食い”をしてもらいたいと考えています。他の研究発表企画であればすでに興味を持つ分野を自分から見に行く必要がありますが、この企画では10分単位で次々に話題が変わります。自分の興味ある分野が漠然としているところから聞き始めて、そのなかではっきりした興味がわく分野に出会えることが強みだと思っています。

科学をどう伝えるか

CAST
普段は小学生・幼稚園生を対象に活動しているので、難しい言葉は使わずに、身近な事象に沿って説明するというのは意識しています。さらに、楽しく聞いてもらうこと、体験してもらうことを重視しています。また、ご家庭での話のネタになるようにというところも意識していますね。
UTaTané
科学をどう伝えるか、そのなかでも参加者の関わり方をどうするかということを私たちは重視しています。来場者に対して問いかけは投げますが、その答えを私たちからは提示しません。来場者が参加したり、考えたりする余地を残しています。
10分
そもそも私たちとしては、科学を伝えるということを第一義的な目標にしているわけではありません。むしろ科学を形づくる「研究」というものを身近に感じてほしいというのが一番の目的です。やはり10分にまとめているところが最大の工夫だと思います。10分という長さが、話を聞いて面白いと感じる集中力の限界だと考えているからです。
委員
話を聞く集中力は10分が限界というような話がありましたが、他の企画の方はこれについてどのように思いますか?
CAST
時間の意識は目的によって変わるのではないでしょうか。いろんな研究を知ってもらうとなると、10分さんがいうように10分くらいが限界というのも納得です。一方で、工作などに取り組んでいる子どもたちが、こちらの想定よりも長い時間夢中になってくれるという光景もよく目にします。
UTaTané
一口に時間の使い方と言っても、「時間を区切る」というのと「時間に余白を持たせる」という2つの要素があると思います。10分さんは講演の後に個別に質問できる時間を設けていますよね。
10分
そうですね。例年だと講演が終わった後、発表者は会場の外の廊下で待機して、個人的に話がしたいという来場者の対応を行っています。全体での質疑応答の時間では話しづらい踏み込んだ内容まで質問をいただきます。

科学をいかに楽しんでもらうか

CAST
手にとって実際に体験してもらうことがポイントだと考えています。逆に、身近なものからは想像できないことに対する「なぜ?」という疑問も、考えてもらうとっかかりになるのかなと思います。「科学の面白さ」の一つの根源としてそういうものがあるんじゃないでしょうか。
UTaTané
人それぞれ楽しみ方は異なる、というのが私たちの考え方です。余白を残したデザインをして、参加者にどう書き込んでもらうかを重視しています。
加えて、科学を伝えるというのは自分自身を伝えることだという意識で活動しています。その点で、10分さんは研究者自身を見せることができていていいなと思います。
10分
私たちが言いたいことを言ってくれました(笑)。研究者が研究の話をするのは自己紹介とほとんど等しいと思っているので、「自分を伝える」ということは本当に大事にしています。
楽しんでもらうために、研究者が楽しんでいる姿を見せることと、聞いている人を置いてきぼりにしないことを工夫しています。

子どもと科学との関わり方を考える

UTaTané
科学に興味がない層にどう伝えるべきか、という話はかなり重要だと思います。科学系のイベントの来場者は関心が高い層に偏っているというデータがあるので、関心が低い層に対しては、科学以外の場所で科学を盛り込むという方法が考えられます。
10分
私たちの立場からすると、私たちは多様性を伝えることができていると感じます。あまり他の人がやらないようなニッチな領域を伝えることを通じてです
科学に興味を持てない子どもは「やれ」って言われるから嫌になるのだとしたら、大人が楽しそうにしている姿を実際に見せることも大事かもしれません。この点はオンラインになったことで失われてしまったことなのかも……
CAST
正直に言えば、科学に興味がないという人たちの気持ちを考えるのは難しい面があります。ですが、科学だけではなく学問全体に言えることとして、「疑問に感じてそれを解く」ことが重要です。身近なところに存在する疑問から出発して、それを科学の面白さに結びつけていってもらえたらと思っています
科学を知らないことと嫌いだということは違います。知らないならきっかけを作ってあげることも必要です。知らないまま興味がわかないことが一番もったいないと思います
UTaTané
その点でUTaTanéは、「何かを作る」というきっかけを用意しています。きっかけ作りとして、科学における何らかの成功体験があるといいのかもしれませんね

3企画ともに科学の面白さを知ってもらいたいという点では共通していながら、それぞれの企画にはそれぞれの「科学の伝え方」があるようです。企画を通して科学の魅力を感じとりつつ、こだわりの詰まった伝え方に着目するのも面白いかもしれません。

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